「只今戻りました。」
 紡は玄関の扉を開けて声を掛ける。
 今日は天は早朝からのドラマ撮影があって、紡が帰宅する時間帯には、とっくに戻って来ると
聞いていた。返事がない……ということは、何か他に急な予定が入ったのかもしれない。
 しかし……天が今日履いて行ったと思われる靴は、出しっ放しになっているから、やはり戻っている
のかもしれない。
(一旦帰宅して、外出……?)
 芸能界の仕事というのは、急な予定というのも多々あるから、致し方ない。
 紡はとりあえず、天がまだ帰宅していないリビングへと歩を進めた。
 リビングは真っ暗で、紡は部屋の明かりを点し、エアコンをつけた。優しい灯りの中、不意に呻き声が
聞こえた。
「ん……っ……。」
「……天くんっ……!?」
 天はリビングのソファーに毛布を頭からくるまって眠っていたようだ。
「おはよ……紡ちゃん……。」
 寝ぼけた声がして、天は寝転がったまま、紡を見上げた。
「暖房もかけずに寝ていたんですか?風邪ひきますよ!」
 天は紡の手を握ると、そのまま自分の頬に当てた。
「もう、キミがいるから、大丈夫だよ。」
 天はようやく身体を起こすと、紡の隣に腰を掛けた。そして、甘えるように紡の身体を抱き寄せた。
「今夜も、キミが温めてくれるんでしょ、ボクのこと。」
「……!」
 ぎゅっと背中に手を回して、人肌が恋しくて仕方がなかったと言わんばかりに紡の背中を撫でる。紡は
ぽっと頬を赤く染めた。
「……とりあえず、温かい飲み物、用意しますね!」
 紡は慌てて台所へと姿を消すと、天へとカフェオレを用意し、そのまま夕食の支度を始めたのだった。

*******

 優しい灯りが、寝室を点す。間接照明が柔らかい光の空間を作り出し、冬の寒さを和らげてくれる。
 二人枕を並べて、天井を見上げながら、何でもない日々を振り返る。
「紡ちゃん、今日もお疲れ様。夕飯のシチュー、とってもおいしかったよ。」
「ふふっ、よかったです。やっぱり寒い日は、シチュー食べたくなっちゃいますよね。私が食べたかった
 から作ったんですけど。」

 天は紡のふわふわの髪の毛を撫でながら、ぎゅっと抱き締めた。
「疲れて帰って来て……こうして、キミが作ってくれたものを食べて……家に帰って来た時だけは、
 こうして何も考えずに、素の自分でいられる。そういう時間や空間がある、って、ボクたちのような
 アイドルだったり、役者にはとっても貴重な場所なんだ。」

 静かに天が、耳元で囁く。
「はい……そうですね。」
「だから、そんな時間を紡いでくれてありがとう。ボクと一緒に過ごしてくれて。」
 紡もぎゅっと天の背中に腕を回す。
「……それにしても、紡ちゃんってやっぱりあったかい。」
「ふふっ、私、湯たんぽ代わりにしちゃっていいですよ。私もきなこをよく湯たんぽ代わりにして一緒に
 寝てました。」

「……それって……ちょっときなこに嫉妬しちゃうなぁ……。」
 天がぷうっと子供みたいに頬を膨らませると、紡は笑いながら、天の頬を突っついた。二人はしばし
無言で見つめ合っていたが、どちらからともなく唇が近付いて、キスを交わした。二人の交わす
口付けは、優しく淡いものから深く激しいものへと変わっていった。
 冬の寒さは忘れたと思ってしまうほど、熱い一夜となったのだった。

「Winter Day」ということで、「冬の日常」のワードパレットをお借りしています。
一覧画像はこちら。→Winter Day
配布元:憂様【Twitter】id=torinaxx
テーマ1:毛布
   「くるまる」、「甘えるように」、「忘れた」
テーマ2:湯たんぽ
   「代わり」、「抱き寄せる」、「人肌」
ただ単に、2人がいちゃいちゃ🏩💕 しているだけですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
(2024年1月31日完成、2月5日サイト公開)