冬場は光熱費が高いこともあり、紡と天が暮らすマンションでも、度々節電を呼び掛けるチラシが
郵便受けに投函されることが増えた。
 特に一月……二十四節気でいうところの大寒は一年で最も寒さが厳しくなる時期であり、どこの
家庭でも暖房器具というのは欠かすことは出来ない。
「天くん、最近よく節電のチラシが入るんですけど……。よかったら、我が家でも節電対策に炬燵でも
 入れませんか?」

 そう話を切り出したのは、紡からだった。
「炬燵かぁ……。あったかくていいよね。でも、炬燵なんて買った暁には、絶対に春が来るまで、
 炬燵から出るのは無理になりそう。」

「ふふっ……天くんのこたつむり、ってわけですね。ちょっと想像すると可愛いです。」
 くすっと紡が肩を竦めて笑う。
「天くんのこたつむりも見てみたいので、私、今日はオフなので、ちょっとお店で見て来ますね。」

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 ネットである程度、物色をしてから、紡は気になったものに目星を付けて直接そのショップを訪ねて
みることにした。そのショップは幅広い商品を取り扱いしており、生活雑貨はもちろんのこと、家具など
インテリア商品も取り扱いがある。デザインっもシンプルでありながらも、使い勝手のいいものが揃って
おり、女性に特に人気のショップだった。
 炬燵というアイテムであれば、レトロ感満載のアイテムではあるけれども、最近では少人数用の洒落た
デザインのものも販売されており、お手頃な価格で手に入りやすくなっている。
 紡は雑貨のコーナーを通り抜け、奥にある家具のコーナーへと赴いた。
家具そのものの展示もあったが、いくつか、ショールームのように家具が展示されていて、インテリア
コーディネートのサンプルとして展示されている。
 その中にいくつか、炬燵を使ったコーディネートもされており、紡はその一つに目を留めた。
 いや――ある意味、一目惚れに近い。
 ホワイトの円卓に、優しいパステル調の炬燵布団があしらわれており、これ以外にはもう考えられない
と思った。
(リビングの色合いに、とても馴染むし、とっても可愛い。)
 紡はふふっと微笑むと、サンプルカードを手に取り、スタッフに声を掛けたのだった。

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 炬燵が届いたのは、次の日の夕方だった。
 紡は大急ぎで仕事を終え、荷物の配達時間に間に合うように帰宅したのだった。
 天は早朝からのロケで出掛けており、彼が仕事を終えて帰って来るのを、炬燵を準備して待っていた。
(やはり、炬燵は正解ですね。とってもあったかい。これは……出られなくなりますね……。私まで、
 こたつむりになっちゃいそう……。)

「――ん……――ちゃん……紡ちゃん……。」
 ぼんやりと自分を呼ぶ声が聞こえた。
「……――!?」
 はっと紡は我に返ると、がばっと声の主に振り返った。
「天さんっ……!?……んっ!?わ、私、寝てましたね!?」
 おどおどと百面相する彼女に、天はくすっと微笑んだ。
「ま、帰宅して早々、キミの可愛い寝顔を拝めたんだし、ボクとしては嬉しいんだけど。」
 はい、と天はクラフト紙で出来た紙袋を紡に渡す。袋はずっしりとしていて、中を開けると、爽やかな
甘い香りが鼻をくすぐった。
「ちょうど今日、炬燵が来る、って言っていたのを聞いたから、タイミングよかったよ。お世話になって
 いるスタッフさんが農家らしくって、蜜柑をたくさん送って来たんだって。だから、お裾分けして
 くれたんだ。」

 天も紡の隣に座って、炬燵の中へと足を突っ込んだ。
「ふう……あったかいね。やっぱり、このあったかさ、いいね。こたつむりになっちゃいそう
 だけれど。」

「そうなんです……!天くんが帰って来るまでに、私がこたつむりになっちゃいました!」
 天は紙袋から蜜柑を一つ取り出すと、皮を剥き始めた。天の長い指先が皮を剥く度に、甘酸っぱい
香りが一層深く漂っていく。
「……キミも食べないの……?」
「いえ――私はその……こたつむりになっていたせいで、何も出来ていなくて、ごめんなさい。」
 紡は天が帰宅するまでに、何もしていなかったのが、余程気に掛かっているようだ。
「ボクは気にしてないよ。キミだって、毎日仕事一生懸命頑張っているんだから。」
 天は長い睫毛を伏せながら、蜜柑の袋に付いている白い筋まで、綺麗に取り除いていく。何となく、
天の行動をじっと見つめていた時だった。
「はい、紡ちゃん。あ~ん、して。」
 天が剥いた蜜柑の袋を持ったまま、紡の唇の前へ突き出す。
「ひやぁあ、あの……私は自分で剥いて食べますから……!」
 慌てて、紡も紙袋の中から、蜜柑を一つ取ろうとしたけれど、その腕は塞がれた。
「何……?ボクの蜜柑じゃ不満……?ボクがキミを甘やかしたいだけなんだけど。」
 こういう時に九条天は、絶対に引き下がらないから、ある意味厄介だ。つんつんと、足先で、紡の
足先にちょっかいを出す。
「きゃっ!?天くんってば!」
「ほら、あ~んして?」
「……はい……。」
 紡は天の視線に耐えられなくて、瞳を閉じて口を開けた。
 ぽんと、蜜柑が一つ口の中に放り込まれるのを確かめると、紡は咀嚼して味わった。濃厚だけれど、
爽やかな甘さが広がる。
「……!?とってもおいしい……ですね……!」
 紡は目をキラキラさせて、天を見つめた。
「ふふっ、よかった。それにしても、この炬燵、可愛いね。ボクたちのリビングにぴったりだね。」
「ありがとうございます!天くんにそう言ってもらえて、嬉しいです。」
 天は一旦炬燵から出ると、今度はぎゅっと後ろから紡を抱き締めながら、炬燵に再び入った。
「わ、天くん……!」
「炬燵もいいけれど……やっぱり、キミのぬくもりがあれば、もっと最高かな。」
 天はちゅっと紡の首筋にキスを落とす。
「……!」
 天はしばらくじっと紡の肩に顔を埋めて、充電するかのようにじっと紡を抱き締めていた。
「天……さん……?」
「ふふっ……ボクって幸せだな、って改めて思って。」
「それは当然です……!だって、天くんって天使なんですもの。人を幸せに出来る人なんだから、幸せに
 なって当然です!」

 紡は夕飯を作るために、炬燵から出ようとしたけれども、天が引き止めた。
「もう少しだけ……キミとこうしていたいな。」

 夕飯が出て来たのはだいぶ遅くになってしまったけれど、また一つ幸せを積み重ねた二人だった。


推しの幸せ🍀😊💕はやっぱり書いていて楽しいですね。
まぁ、私が楽しいだけなんですけどね。
うっかりイチャイチャなHシーン🏩💕に突入するところだったんですけど、シリーズものなので何とか
踏み留まりました。【pixiv】のシリーズ設定していたので、これをR18🔞にすると、他も全部そう指定
されてしまうから。
「Winter Day」ということで、「冬の日常」のワードパレットをお借りしています。
一覧画像はこちら。→Winter Day
配布元:憂様【Twitter】id=torinaxx
テーマ1:蜜柑
   「甘い」、「筋」、「あーん」
テーマ2:炬燵
   「出られない」、「足先」、「じっと見つめる」
このページの壁紙は、紡ちゃんが買った炬燵のイメージカラーで設定しました。
「おこたで蜜柑🍊」の冬❄☃🧣🧦 のド定番を天紡でやってみました。
(2024年1月29日完成、2月5日サイト公開)