朝、目が覚めて、事務所へと出勤しようとすると、体調が優れない自分がいることに気が付いた。
(これはもしかして――……。)
 この数日、恋人の九条天はロケのために、家を空けているが……今日戻って来ると、昨夜ラビチャが
あったばかりだった。
(……天くんが戻って来るというのに……私が体調不良では、とてもマズいですね……。)
 だからと言って、下手に誤魔化せるわけではない。かと言って、今の状況で事務所に行っても、迷惑が
掛かるだけだ。
 申し訳ないけれど、今日は一日、大事を取って休むことにした。先に病院へ行って、風邪薬をもらいに
行くことに決めた。
 スマホから小鳥遊事務所に電話をすると、穏やかな声が耳元で聞こえた。
「あぁ、今日はゆっくり休んだらいいよ。あとのことは、俺に任せて。お大事にね。」
 同じ事務所で働く有能事務員・大神万理が、紡のことを気遣う穏やかな
声が心地よい。紡は心の中で何度も感謝をしつつ、まずは病院へと向かった。

 病院からの帰り道――。  じわじわと上がってくる熱と戦いながら、とりあえず、買い出しを
済ませようとスーパーに立ち寄った。とりあえず、自身に必要なスポーツドリンク、そして、今日帰宅
するであろう天のために、簡単な料理を作ろうと、食材を選びに来たのだった。
(せっかく、仕事をして帰って来るのだから、簡単なものでも作って労っておきたい――。)
 何とか、会計を済ませて、荷物を持って外に出た時だった。
「どうして、この時間にキミがこんなところにいるの――?」
「……!?」
 聞き慣れた声がして、ビクッと体が固まった。
「……その声は……!?」
「しーっ……。とりあえず、行こう。」
 マスクに帽子、そして伊達メガネで変装はしているものの、それは紛れもなく帰りを待ちわびていた
天、その人だった。
 天はタクシーを呼び止めると、紡を奥へと押し込んで、自分も引き続いて乗り込んだ。自宅マンション
付近まで乗り付けると、天は料金を支払い、紡の持っていた荷物を持ち、さっさと歩き出す。

*******

 自宅へと戻ると、紡を中へ入るように促すと、ようやくそこで天は変装を解いた。
「はい、お疲れ様。紡ちゃん、座ってて。体調……崩しているんでしょ?」
 紡は言われるままに、ソファーに腰を下ろした。
「どうして……天くんには、何もかも見抜かれてしまうんでしょう……?」
「どうして、って……。ボクもロケが終わって、帰宅する途中で、御飯を調達しに来たら、フラフラの
 キミを見掛けたからさ。明らかに調子悪かったでしょ?」

 天は紡の額に手を添えると、天のひんやりとした肌が今の紡には心地よかった。
「天くんの手……気持ちいいです……。」
「ちょっと待っててね。」
 天は台所に向かうと、冷蔵庫からレモンを取り出し、それを輪切りにし出した。
そして、蜂蜜を取り出すと、輪切りにしたレモンと蜂蜜をマグカップに入れて、その上からポットで
お湯を注いだ。ふわりとした優しい甘さの蜂蜜と、清々しいレモンの香りが漂った。
「はい、紡ちゃんの分。ホットレモン。喉にいいと思うし、あったまると思うから。」
 湯気が立ったマグカップを受け取ると、紡はふうふうと冷ましながらも、ホットレモンを少しずつだが
流し込んだ。甘酸っぱさが心地いい。
「おいしいですね。天くん、ありがとうございます。でも……ロケから戻って来て早々にこんなこと
 させてしまって、ごめんなさい。」

「謝るくらいなら、早く元気になって。ほら、飲み終わったら、ベッドに行こう。きっと、キミも
 忙しかったから、疲れが出たんだよ。だから、これは、神様がくれた休日って思わないと。」

 天は子供をあやす様に、紡の髪を撫でた。紡を見つめる眼差しが甘い。天は一旦懐に入れた相手は、
とことん甘やかしたいタイプなので、この後、紡の熱が下がるまで、献身的なまでに看病をするの
だった。

書いていたら、日付変わってしまいました。
「Winter Day」ということで、「冬の日常」のワードパレットをお借りしました。
一覧画像はこちら。→Winter Day
配布元:憂様【Twitter】id=torinaxx
テーマ:ホットレモン
   「あったまる」、「風邪」、「撫でる」
多分、ワードパレットの作品はまとめて展示したいんだけれど、どう展示するのかちょっと悩んでは
いる。多分、天紡だけでページを隔離した方がいいんだけど、そうなると階層が深くなって、そこに
辿り着くまでが煩わしいかなぁ……。
とりあえずは、ワードパレットの画像をリンクしていますので、また気が向いたら書いていこうと
思います。
(2024年1月8日完成、1月9日サイト掲載)