毎年恒例の「BLACK or WHITE」のカウントダウンまで終え、仕事納めと仕事初めを一気に終えたかの
ような時間だった。
 アイドルたちは心地のいい疲れと、新しい年を無事に迎えられた高揚感でいっぱいだった。楽屋では、
 IDOlLiSH7一同も、今回も無事に一仕事終えたことを喜び合っていた。
「あー、お兄さん、このままみんなを連れてどっかで飲み会したいところだわ。」
「お、いいねぇ、ヤマさん。でも、さすがに正月だから、寮戻ってから飲むくらいしか無理なんじゃ
 ない?」

 すでに、リーダーの二階堂大和と和泉三月の二人は、打ち上げすることしか考えていない。あれだけの
盛り上がったステージを終えて、更にまだ飲む元気が余っているのだから、ある意味アイドルの基礎体力
というのは舐めてはいけない。
「兄さん……このままだと、また二階堂さんにおつまみ作るようにせがまれますよ。」
 ぼそっと呟いたのは、和泉三月の弟・和泉一織である。
「じゃあ、僕が皆さんに手料理を……」
「ソウのは遠慮しとく。さすがに、年明け早々にソウの激辛料理だと、モンスターどころか火吹き
 ドラゴンになっちまうからな。」

 ヤマさんはポンポンと笑いながら、逢坂壮五の頭を撫でた。
「皆様、お疲れ様でした。お正月ですから、飲むのは御自由に、なんですけどくれぐれも飲み過ぎには
 注意してお過ごし下さいね。今から、寮まで皆さんをお送りしますので、まずはゆっくり休んで
 下さいね。」

 紡は寮までIDOLiSH7の7人を送り届け、一旦自身も事務所に戻った。
アイドルを無事に毎年送り届けるのが、自分の初仕事でもある。
 ワゴンから降りようとしたその時だった。ラビチャの通知が届いたので確認すると恋人の九条天からの
ラビチャだった。

明けましておめでとう。
キミと今年も新しい年を迎えることが出来て嬉しいよ。
早く家に戻っておいでよ。本当にお疲れ様でした。

 紡はふっと微笑むと家路に着いた。
家に着くと、天が嬉しそうに出迎えてくれた。
「お疲れ様。そして、改めて、明けましておめでとう。」
 ぎゅっと紡を抱き締めると、ふわりと石鹼の香りが鼻を掠めた。
「私も先にお風呂頂きますね。あ、でも、天くん、お腹減ったりしていませんか?」
「大丈夫だよ。」

 紡が風呂から上がって来ると、天はリビングでテレビを見て寛いでいた。
「お正月番組って、なんかのほほんとしていていいよね。」
「そうですね。毎年同じような番組とは言っても、当たり前の日常ほど、尊いものは
 ないのかもしれませんね。」

 画面が、初日の出の映像に変わった。実際の日の出までには時間があるから、
過去に撮られたものだろう。映像特集として、いろんな地域で撮影された初日の出がゆるやかな音楽と
共に流れていく。
「そういえば……初日の出ってボク、あまり見たことないなぁ……。この仕事をしていると毎年
 カウントダウンした後は疲れて眠ってしまうから。」

 ポツリと、少し残念そうな天の声が聞こえた。
「じゃあ……天くんがよければ、今から初日の出、見に行きませんか?」
「……!?キミ、今なんて言った……?」
 あまりの唐突の申し出に、天が驚いてもう一度聞き直した。
「だから、初日の出を一緒に見に行きましょう、って。私、運転しますから。」
「運転って……キミ、個人の自家用車なんて持ってないでしょ?無茶なこと
 言わないで。」

 天の言葉に、紡はちっちと人差し指を立てると、笑顔でさらりと言う。
「私、天くんと出掛けたくて、こっそり車買っちゃいましたから。」
「……!?」
「天くんは到着するまで、眠っていて下さいね。私、張り切って運転しますし、いつか天くんとは
 初日の出見たいと思っていましたから。」

 あまりにも男前すぎる行動力を発揮する自分の恋人に、天は唖然としながらも、急いで服を重ね着して
防寒対策をし、紡と共に初日の出のスポットに向かうのだった。

*******

 目的地は、東京から車で二時間も掛らない富士山の麓。
 高速道路は思っていたよりも流れたけれど、目的地周辺の撮影スポットは、初日の出を拝もうとする
観光客でごった返していた。運よく駐車場に車を止められて、二人は車を降りた。早い人は前日から
場所取りをし、元旦の日の出を待つという。
「初日の出って、本当にこんなにすごい人が集まるんだね。」
「えぇ、私も初めて来ましたし、話には伺っていましたが、本当にすごい人ですね!」
 夜明けにはまだ少し時間があるが、山間部のせいで、だいぶ冷え込む。
「とりあえず、撮影スポット、行ってみよう。」
 二人は一番人気の撮影スポットに向かって歩いて行った。
 次第に東の空が紺碧の星空から淡い藤色から淡い黄色い陽だまり色となり、
随分と辺りが明るくなった。やがて、空が明るい青へと輝き始める。
 今か今かと初日の出を待つ人たちの期待と、シャッターチャンスを逃すまいとするカメラマンたちの
緊迫した空気に包まれていた。ずらりと並んだ三脚は、本当に壮観で、ある意味この季節ならではの
風景なのだろう。
 そして、この世界を照らす第一光が山の端から現れた。
「紡ちゃん、ボクの代わりに写真撮って。」
「はい!」
 天は紡をひょいと抱き上げた。
「わ!」
 一瞬びっくりした紡だったが、せっかくのシャッターチャンスを逃すわけには行かないと写真を撮る
ことに専念した。スマホを構え、今年の初日の出を捉える。
 初日の出が反射して、きらきらと水面にも映し出し、水面にも映ったダイヤモンド富士と併せて、
ダブルダイヤモンド富士となった。
 風が凪いだ奇跡的な一瞬にしか撮れない絶景である。
 自然の鏡が映し出すダイヤモンド富士は、湖の透明度の高さがあるからこそ。
「綺麗だね……。今日、来てよかったよ。ダイヤモンド富士って、こんなに神々しくて美しいもの
 なんだね。」

「ふふ、よかったです!言ってみた甲斐がありました!」
「あと、これはボクから。」
 天は上着のポケットから、小さな箱を取り出した。
「紡ちゃん、手貸して。」
「……?」
 紡の手袋を外すと、ひやりとした空気が触れて、一瞬ぶるっと身震いしたが、箱の中から取り出した
指輪をそっと紡の細い薬指に通す。
「……!これを……私に……ですか?」
 きらきらと光るダイヤモンドが、初日の出にキラキラと照らし出される。
「そう。クリスマスも逃しちゃったし、今日渡そうと思っていたから。まさか、
 こんなにスペシャルな一年の始まりになるとは、思ってもいなかったけれど。」

「今年もよろしくお願いします。」
 紡は改めて、天に深々と頭を下げる。
「ふふっ、こちらこそよろしく。こんなに行動力があって、突拍子もないことをしでかすキミをボクが
 離すわけないでしょ。」

 二人はしばらく、清々しい気持ちで煌々とこの世を照らし出す日の光を眺めていたのだった。

 今年一年が、光り輝く素晴らしい年となりますように……。


明けましておめでとうございます🌅🎍🐉✨
新年一発目の作品は、天くんと紡ちゃんに初日の出🌅を見に行ってもらいました。
ブラホワ🖤🤍 後、どういう口実で外出させるかだったんですけど、まぁ、何とかなりましたね。
ダイヤモンド富士💎🗻ってリアルだともっと綺麗なんだろうなぁ……。
(2024年1月6日完成)