師走……一年で最も忙しい季節でもあり、どの業界でも概ねそうであるが、一年の締めとなる
一か月である。
 芸能界もまた然り……。特に、テレビ番組に関しては、十月頃から十二月初旬までは何かと忙しい。
生放送は別として、年末年始番組の収録は、主に十一月頃に収録をし、その後編集作業などもあるため、
十二月初旬までは繁忙期となる。
 また、舞台関係の仕事ともなれば、年末年始の公演も多く、千秋楽が本当に年の瀬……ということも
ままならない。生放送で年越しカウントダウンのような企画ともなれば、プライベートでの正月など、
ほぼ無きにしも非ずである。

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「ただいま……。」
 天はその日の収録を終え、姉鷺の運転する車で自宅まで送ってもらった。
 玄関のドアを開けると、気付いた紡が小走りに出迎える。
「お帰りなさい。寒かったですよね……!」
 天は着ていたコートと帽子を脱いで、玄関口のポールハンガーに掛けた。この数日で急激な寒波が
押し寄せた影響で、一気に冬らしい寒さとなった。
「あ……いい匂いがする。」
 キッチンから、食欲をそそる匂いが微かに漂ってくる。
「はい。今日も頑張っている天くんには、おいしいものを食べてもらいたくて。」
 にっこりと陽だまりのように微笑む彼女は、真冬に咲く蝋梅の花のように、心に優しい灯りを点す。
「今、用意していますので、ちょっと待っていて下さいね。」

 紡がその日作っていたのは、鶏そぼろが入った南瓜の煮つけだった。ほっこりと味の滲みた南瓜が
優しいのに、ついつい箸が進んでしまう。そして、優しい味わいの小豆粥と共においしく頂いた。
「こういう味って、ほっとするね。優しくて、懐かしい味がする。」
「ふふっ、よかったです。」
 紡はそっと、味噌汁の入ったお椀を置いた。
「今日は冬至ですから。黄色いものを食べると、縁起がいいらしいですよ。」
「あぁ、もうそんな時期なんだね。忙しかったから、日付の感覚までなくなってしまいそうだけれど。」
 芸能界は出勤時間もまちまちで、明け方からの収録もあれば、夜遅くに収録することもあり、また、
楽屋や撮影場所に入ってからの待ち時間も長い。時間の体感が狂いそうであるが、ただ時間遵守な業界の
ため、一分たりとも遅刻は許されないし、下手をすれば仕事自体を失うことだってあるのだ。上下関係も
厳しく、常に緊張した空気の中で動いている業界である。
 だからこそ、こうして愛しい人と共に過ごす、さり気ない時間というのは大切で、天にとっては
何よりも安らぎの時間となっていた。
「ね、今日、冬至ってことはさ。一番夜が長い日だよね。ということは、キミとゆっくりと夜を過ごして
 いい、ってことだよね?」

「……へ……?」
 唐突に問い掛けられて、紡は変な声を漏らしてしまった。
「冬至って、太陽の時間が短くなるってことだから、生命力が弱まるって恐れられていたんだよね?
 だから、太陽を感じさせる黄色いもの、食べるって。この日を境に日が長くなるってことだから、
 一種の禊みたいなものだよね。キミが炊いてくれた小豆粥も浄化の意味合いがあるし。ボクにとっての
 太陽って、キミだからさ。」

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「――どうして、こうなっているんですか!?」
 爽やかな柚子の香りが、鼻を擽る。もくもくと湯気の立つ湯船で、紡はしっかりと後ろから天に
抱き締められていた。
「だって、キミと一緒に、柚子風呂に入りたかったんだもの。」
「うう……断れなかったです……。」
 紡は肩をすくめて、俯いた。そして、あまりにも天の誘いを断り切れない自分が恥ずかしかった。
自分だって、どこかでこうなることを期待していたからだ。
「さっきも言ったでしょ?キミがボクにとっての太陽なんだから、今日はキミからたくさん充電して
 おかないとね。」

 すっと腰に回した手で、紡の腹を撫でた。
「……!」
 ぴくんと跳ねた紡の肩を見て、天はふっと笑うと、紡を抱えて自分の方に 向き直らせた。
「やっぱり可愛い。」
「天くん……ずるい……。」
 天は愛おしそうに瞳を細めると、紡の濡れた髪を撫で、頬に触れて、そのまま唇を奪った。いつもより
しっとりと潤った唇が蕩けるように柔らかくて、天は夢中になって紡の唇を貪った。
 紡の柔らかい乳房を手で包み込み、さくらんぼのような艶めいた突起を指で弄ぶ。
「んっ……!?でも……天くん……これ以上は……駄目……です。」
 紡は胸を隠して、雀の涙ばかりの抵抗を試みる。が……。
「どうして?ボクはキミがほしくてたまらないんだけど。」
 こういう時の天は真っ直ぐで、紡の抵抗なんて、諸刃の剣である。拗ねた顔まで美しいのだから、正直
たまったものではない。
「本当はベッドで……って思っていたんですけど……。」
 今度は紡が天の頬に触れた。
「のぼせてしまったら……一緒に夜を過ごせなくなるでしょう……?」

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「んっ……天くんっ……!」
 寝室に入ると、紡はすぐに押し倒され、褥に縫い付けられるように、激しく求められた。動く度に、
先程の柚子湯の残り香が部屋に舞う。一旦纏った寝間着はすぐに剝がされて、一糸纏わぬ姿で愛を
語り合う。
「今日は特別な香りを纏っているから、またいつもと違うね。」
 激しく求められているのに、天の唇としなやかな長い指先から施される愛撫は、遅効性の毒のように
紡の理性を奪っていく。
「大好きだよ……紡ちゃん。」
 生命の源が陽の光であるように、天にとっては紡がかけがえのない存在だった。
 芸能界という一見華やかに見えて、毒が巣食うこの世界で、いつも心を癒してくれる存在――それが
紡だった。
「私もです……好き……。」

 一年で一番長い夜、二人は補うように、そして繕うように共に時を過ごした。
これからは、日が長くなる。まだまだ続く長い冬。けれども、二人の夜は寒さも忘れるほどに焚火の如く
燃え盛る夜を過ごしたのだった。


エロ描写そのものはそこまでなんだけど、どうしても冬至の柚子風呂🍋♨の話は書いておきたくて。
万人受けなんてそもそも目指していないので、自分の書きたいものを書いただけ、っていうね。
強めの幻覚だけれども、本編が過酷なアイドルたちだからこそ、二次創作でくらい、イチャイチャ🏩💕
幸せになってほしい🍀😊💕推しのイチャイチャ🏩💕なんて、何回見たっておいしいんだから、
一旦懐に入れたらとことん甘やかす天くんと、何だかんだで言いくるめられて愛されてしまう紡ちゃんは
やっぱり最高だと思うのよね。
(2023年12月22日完成)