この数日気温が下がり、秋どころか、冬へと一気に季節が進んだと感じられた。
 この日、IDOLiSH7の七瀬陸は、久しぶりのオフを活用して、都内にある某大型書店へと足を運んで
いた。平日なので、あまり混んでいないことを願いながら……。
(うわぁ……久しぶりに来たなぁ……。せっかくのオフだから、ゆっくりと本選ぼう。)
 読書が大好きな陸は、ワクワクしながらお店に入った。もちろん、帽子、眼鏡、マスク、服装と変装は
完璧……なはずである。
 幸い、時間帯的にも開店直後だったからか、人はまばらだった。
 幼い頃は今以上に体が弱かった陸は、本を読むのが大好きになった。自分の身体が弱くても、本は
自分の知らない世界に誘(いざな)ってくれる。現実では体験出来ないような、ドキドキワクワクと
した物語が広がっており、様々な世界を見せてくれる本に夢中になった。時には、天が陸に本を
読み聞かせてくれて、二人で絵本の中で繰り広げられる冒険に夢中になったものである。
 陸はまず、書店に入って最初に目にする新刊・話題書コーナーへと立ち寄った。
(いつも読んでいた作家さんが、たしか新刊出していたはず……。)
 広い書店、新刊台とはいえ、多面展開しており、探し出すのもなかなか大変である。
(あ、あった……!)
 しかも、そこにはサイン本も一緒に並べられており、陸は迷わず、サイン本を手にした。
(今日来れて、ほんっとうにによかった!)
 自然に笑みが零れる。大好きな作家のサイン本なんて、ファンなら喉から手が出るほどほしいもの
である。
 陸は他の書棚も見ようと、エスカレーターを上った。絵本のコーナーを見ようと、児童書のコーナー
へと向かった。
(うわぁ、可愛いなぁ。ここに来ると、懐かしいし、ほっとするなぁ。)
 ハロウィンが終わって、街は一気にクリスマスカラーとなったが、書店でも絵本コーナーは色鮮やかな
クリスマスカラーの絵本がたくさん並んでいる。そして、陸はクリスマス絵本のフェアー台の横に
貼られたポスターを見ると、食い入るように見つめた。
「ブック……サンタ……?ブックサンタ……。」
 その企画は、この数年、毎年ホリデーシーズンに行われ、参加している全国の書店で本を買うと、
児童福祉施設などに本を提供されるという取り組みのようだ。
(いいなぁ……。素敵だなぁ。よし、僕も何か贈ろうかな。絵本って夢が広がるし。
 もっとたくさんの人に読んでもらいたいな。)

 陸はいくつか本を手に取り、選定を始めた時だった。
「もしかして……陸、さん……?」
 背後から声を掛けられて、陸はドキッとして固まった。
(変装は完璧だったと思うんだけど……。)
 ゆっくりと陸は振り向いた。そこには、自分たちをいつも支えてくれているマネージャーの小鳥遊紡が
立っていた。
「マネージャー!?」
「やっぱり、陸さんでしたか。」
 身バレしても全く問題ない相手で、陸はほっと息をついた。
「どうしたの?マネージャー、こんな朝早くからこんな場所にいるなんて。」
 きょとんとしている陸に、紡は言葉を続けた。
「私はちょっと、仕事効率化のための本を選びに来たのです。クリスマス
 シーズン、ということで、季節感を感じたくなりまして。たまたま、
 こちらの棚を見に来たんです。そうしたら、陸さんが……。」

「そうだんたんだ……!マネージャー、いつもオレたちを支えてくれてありがとう!」
 陸も嬉しくなって、にっこりと紡に微笑んだ。
「ねぇ、マネージャー。見て、この企画。とっても素敵な企画だと思わない?」
 陸が先程眺めていたポスターを指差した。
「ブックサンタ……ですか……?……――。」
 紡も初めて聞いた企画を咀嚼するためにポスターに見入った。
「今、この企画を知って、オレも選んでいたところなんだ。」
「……本当に、素敵な企画ですね……!なら、私も一緒に選びますよ!」
「わぁ、マネージャーも一緒に選んでくれるなら、心強いなぁ。それに、たくさんの笑顔が見られる企画
 っていいよね!」

 本当に嬉しそうにはしゃぐ陸に、紡はにっこりと微笑んで共に本を選んだ。
買い物かごを用意して、いくつか絵本をその中に入れて行き、売り場を一周する頃には、たくさんの本が
かごの中にひしめいていた。
「たくさん集まったね。ちょっと重いけど、お会計してくるね!」
「あぁ、陸さん!私が選んだ分は、私がお支払いします!」
 まとめて商品を持って行こうとする陸に、慌てて紡が引き止めた。
「いいって!せっかく、マネージャと一緒に過ごせて、大好きな本もたくさん選べたんだもん。
 ありがとう。」

 そういって、レジに行ってしまった陸の背中に、紡は軽く一礼した。
(陸さん……本当に頼もしくなりましたね……!)

「陸さんは、この後どうされるのですか?せっかくのオフなんですから、ゆっくりとお過ごし頂きたい
 ので、私は失礼しようと思うのですが……。」

 立ち去ろうと言葉を選ぶ紡を、陸は慌てて引き止めた。
「……ま……待って!マネージャー!」
「……?」
「この時間帯にマネージャーもここにいるってことは、マネージャーもオフだよね!?」
 確認するように紡の顔を覗き込む。
「はい。でも、陸さんの貴重な時間を奪うわけにはいきませんので。」
「何言ってるの!?オレ、今日マネージャーと会えて、すっごくラッキーだったよ。
 大好きな作家さんのサイン本も手に入ったし、ブックサンタにも参加出来たし。それに、何より
 マネージャーと会えたことが、一番嬉しかったな。」

 屈託ない笑顔でそんな言葉をすらすらと並べてしまわれると、さすがの紡も照れ臭くて、真っ赤に
なって俯いてしまう。
「本屋に寄ったら、すぐに帰って本を読もうと思っていたんだけど、マネージャーとも、もっと
 一緒に過ごしたいな。」

 ねだるように、陸は紡の顔色を伺う。
「ねぇ、マネージャー、久々にオレたちの寮に遊びにおいでよ。みんなもきっと喜ぶよ!それに……
 オレの部屋にも……来てほしいな。マネージャーと二人で過ごせたら嬉しい。」

 ストレートな言葉が紡の胸を鷲掴みにしてくる。
「じゃあ、おいしいお菓子、買って帰りましょうか。陸さんの分、そして寮にいる皆さんの分も。」
「やったー!」
「とりあえず、車で来ていますので、待っていて下さいね。」

*******

 メンバーが住んでいる寮に、紡は久しぶりに足を踏み入れた。
他のメンバーは、ちょうど仕事に出掛けているのか、寮には陸と紡の二人っきりだった。
「とりあえず、冷蔵庫にみんなのケーキ、入れておくね。」
 陸は冷蔵庫の場所を作って箱を押し込んだ。そして、ダイニングテーブルに
ケーキが入っていることをメモを残しておくと、紡と自分のケーキのみをお皿に乗せて、自室に運ぶ
ことにした。
「マネージャー、紅茶淹れるね!」
「あぁ……陸さん、それならお手伝いしますよ!」
 陸は紅茶のティーパックをティーカップに入れて、紡は上からお湯を注いだ。
芳しい茶葉の香りにほっとさせられる。
「じゃあ、陸さんのお部屋まで運びますね。」

「ん~っ、おいしい!マネージャー、この苺ショート、すっごくおいしいね!」
「ここのお店、人気なんですよ!生クリームも絶品ですし、やっぱり苺のショートケーキって、何だか
 特別な感じがしますよね!」

 二人はニコニコしながら、先程買って来た苺ショートを頬張っていた。
(特別……?マネージャー、それって……ちょっとはオレのこと、特別に思ってくれているのかな?)
 そんな思いが陸の脳裏を掠める。動きが止まった陸に、紡は声を掛けた。
「陸さん……?陸さん……?もしかして、お疲れなのではないですか?」
 ハッとすると、紡が心配そうにこちらを伺っている。
「あ、大丈夫だよ、マネージャー!」
 陸は残っていたケーキを口に放り込むと、紅茶で流し込んだ。
「あ、あっちっ!」
「あぁ、陸さん!大丈夫ですか?」
 紡は心配して、陸の隣に寄り添うように座った。
(……どうしよう……!?マネージャーが……近いっ……!)
 舌の火傷よりも、マネージャーの距離の方が、今の陸にとっては、ずっと問題である。
「お水、取って来ますね!」
 紡は部屋から出て行くと、コップ1杯の水を持って、すぐに戻って来た。
「大丈夫ですか、陸さん!?」
「ありがとう、マネージャー。」
 コップを受け取ると、陸は水を一気に飲み干した。
「今日は、一緒に過ごしてくれてありがとう。」
「こちらこそ、楽しい時間を、ありがとうございました。」
 陸は紡の手を取ると、続けて言った。
「また、一緒に過ごしてくれるよね……?」
 今にも泣き出しそうな、縋るような陸の表情を見たら、嫌だなんて断れない。
それに……紡自身も陸のことは大好きだからこそ、こうして一緒に過ごしているのだ。
「はい!よろしくお願いします。」

 その頃、ちょうど部屋の外が騒がしくなった。
「なぁ、いおりん。マネージャーが来てる、って本当?」
「えぇ、靴がありましたから。きっと、七瀬さんも戻られていることでしょう。」
「どうしてそこまで分かるの!?いおりんって、もしかしてエスパー???」
 高校生組の二人が、学校から戻って来たようで、リビングへと向かっていた。

「マネージャー、行こう。」
「はい。」
 二人は部屋を出ると、帰って来た二人と合流した。
「あーっ、マネージャーにりっくんだー!」
 ダイニングテーブルのメモを見た一織は、二人に御礼の言葉を述べた。
「マネージャー、七瀬さん、お菓子ありがとうございます。」
「ねぇねぇ、なんでりっくん、マネージャーと一緒にいたの???デート???」
「…!?」
「――!!」
 環の言葉に、陸と紡は顔を見合わせて、赤くなって俯いてしまった。
 何の考えもなしにズカズカと質問する環の手を、一織は軽くつねった。
「いってぇ、いおりん!」
 睨み付ける環に、一織は小声で言った。
「四葉さん……お二人の関係を見たら、分かるでしょう?それ以上は、踏み込んであげないで下さい。」
 ひそひそと話をする一織と環に、何となく気まずくなって、紡がそそくさと申し出た。
陸も二人に席に着くように促した。
「あの、皆さんに、お茶淹れますね。」

*******

 その後、IDOLiSH7のメンバーが全員戻るのを待って、久しぶりに三月が作ってくれた夕飯まで
頂いてから、紡は寮を後にした。
 きらきらと輝くアイドルになっても、ずっと変わらないでいてくれるメンバーの優しさがとても
嬉しかった。
 幸せで優しい時間を過ごした紡は、また改めて、明日からの仕事を頑張ろうと心に誓ったのだった。

陸紡で書店か図書館ネタは書いておきたかったので、ブックサンタ📚🎅の話題を元に、話が広がり
ました。陸紡って可愛いよね😊😊😊本当に微笑ましい。
アイナナ🌈🚀✨ちゃんたちをわちゃわちゃさせるのって楽しいので、また書きたいですね。
(2023年11月15日完成)