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ハロウィンさえまだ本番を迎えていないというとある秋の日。 その日は朝早くから、とある化粧品ブランドの撮影で、天は都内にある撮影スタジオで仕事を行って いた。楽、龍は別日に同じ撮影を行うこととなっており、今回の撮影は、天がトップバッターであった。 数年前にIDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeの三組でクリスマスコフレの撮影を行って大反響だったことも あり、ここ近年、ビジュアルを担当する仕事も今まで以上に順調に増えていた。 様々な角度から撮影し、何百枚と撮った写真の中から一枚を選ぶ。単調な仕事のように見えるのかも しれないが、この仕事は思っている以上に神経と労力を使う。 「はい、九条さん、お疲れ様でした!」 今日撮影していた女性のカメラマンが撮影終了の声を高らかに上げると、待機していた他のスタッフも 天に労いの言葉を掛けてくれた。 「今回も、すごくいい絵が撮れたよ。楽しみにしてて。」 にっこりとカメラマンが微笑むと、天に大きな袋を手渡した。 「撮影に使ったこれ、持って帰ってね。いい絵が撮れたから、その御礼。」 「……お気持ちはありがたいのですが……こんな高いもの、ちゃんとお代をお支払いしますよ?」 天はそう申し出たが、カメラマンは半ば強引に押し付けた。 「いいからいいから!大切な人にあげるとか、周りの女の子にプレゼンして回るとか、九条さんなら 使い道いくらでもあるでしょ?宣伝、よろしくね。」 ちらりと、同棲している紡の姿がちらついた。 「……はぁ……。」 天はカメラマンに一礼すると、袋を抱えて楽屋に戻った。
「ただいま。」 ******* (……――いい匂いがする……。お腹空いたな……。)鼻をくすぐる、食欲を掻き立てられる匂いで天は目が覚めた。 ソファーから、キッチンに立つ人の姿を認めると、天はまだぼんやりしながら、 身体を起こした。どうやら、随分ぐっすりと眠っていたらしい。 気が付けば、毛布まで掛けてくれていたらしい。 ぐつぐつと何かを煮込む音が聞こえる。 「……お帰り、紡ちゃん。」 天は紡に声を掛けると、紡は驚いて、一旦火を止めると、天の座っているソファーまで駆け付けて 来た。 「天くん、お疲れ様です!」 「……ごめんね。先に帰っていたら、ボクが御飯くらい用意しておかないといけないのに。」 情けないと顔を覆うと、紡はその手を取って、にっこりと笑った。 「いいえ、大丈夫です。それに、今日は予定より随分と早く上がれましたので、天くんに会いたくて、 すぐに帰って来ました。」 握ってくれた手が温かくて、愛おしくて、天はぎゅっと紡を抱き寄せた。 「ボクの恋人がこんなに可愛いなんて、幸せだな。」 そして、ふわふわとした紡の髪の毛を優しく撫でた。 「あ……そういえば。」 天は思い出したように呟くと、スタジオでもらった大きな袋を探した。 ちょうど、ソファーの足元に置いてある。 「これ……紡ちゃんに。」 「……???」 「一足早い、クリスマスプレゼントの予行練習、ってところかな?」 天は大きな袋を紡に渡した。カメラマンが適当なサイズの袋に入れてくれたので、飾り気はない けれど。 「プレゼントですか?随分と大きいですね。」 紡は天から袋を受け取ると、中身を見て小さな声を上げた。 「……すごい……!」 中から取り出すと、豪華な箔押しが施された白いお城を象った箱が姿を現した。箔、そしてラメ、 ラインストーンと、まるで硝子の城のような煌めきと、上品な美しさが詰まっていた。 その大きな箱には、たくさんの窓が付いていて、中に何かが入っているようだった。 「これって……!」 「そう、アドベントカレンダー。海外ではよく見掛けるけど、最近では日本でも人気があるみたい だね。」 天はきらきらと顔を輝かせる紡の反応を見て、持ち帰ってよかったと安堵した。 「十二月の一日から、一つ一つこの小さな窓を開けていくんだ。で、毎日毎日、この窓からは一つ、 アイテムが出て来るんだよ。」 「それは、本当にクリスマスまで、待ち遠しいですね!忙しい日々が続きますが、 増えますね。」 そして、改めて紡の手を取りながら、天は言葉を続けた。 「コスメブランドのアドベントカレンダーだから、一つ一つアイテムが増えるごとに、 そのアイテム分、キミはますます綺麗になっていくんだろうね。」 「……!」 ぽっと頬を染めた紡の指先に、天はキスをすると――。 「これ以上、紡ちゃんが可愛くて綺麗になったら困るんだけど、でも、もっとボクのまだ知らないキミを 見てみたい。」 「……わ、私だって……!天くんのもっといろんなところ知りたいです!」 天に張り合うかのように、紡も負けじと言の葉を返す。 「今年は、一緒にクリスマスを過ごせるといいね。時間作ってさ。」 「はい、そうですね。数日早くても、遅くてもいいので!」 紡がそう言ったところで、天はくすっと笑った。 「ふふっ、遅かったら……すぐに正月になっちゃうよ。」 「スケジュール、また分かったらお伝えしますね。」 「うん。」 そう言うと、紡は料理を作るからと、キッチンへと戻っていった。 ******* 一日、また一日と、コスメという魔法に掛かったキミは、今まで以上に美しくなって、ますます手離せなくなるんだろうね。 シンデレラの魔法は時間になれば解けてしまうというけれど、きっとこの魔法は解けることはない。 彼女の持つ輝きが、より一層強くなるのだろう。ボクは手離さないように、失わないように…… ただただ繋いだ手を握り締めるだけ。 当たり前の日常、当たり前の幸せがこんなに近くにあるだなんて――。 |
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Halloween🎃👻より前、って冒頭に書いていたのに、アドベントカレンダーを来月から……って書いて しまっていました💦今は、ちゃんと12月から、って修正しております。バグるね💦 そして、今回はクリスマス🎄🎅🎁✨を待つ天紡ってことで。可愛くないですか⁉ 何気ない日常の一コマは書くのが好きですね。楽しかったです🥰🥰🥰 自分でアドベントカレンダー買っても、多分三日坊主で終わりそうなので、作品に登場させました。 (2023年11月15日完成) |