夕暮れ時、とあるテレビ局でIDOLiSH7の仕事にマネージャーの小鳥遊紡は同行していた。
 仕事が終わり、アイドルたちが控室に戻って、彼らが帰り支度を終えるのを、紡は一人、ロビーで
待っていたところだった。
「――小鳥遊さん。」
 唐突に背後から声を掛けられた。キャップを目深に被り、スカジャンを羽織って立っていたのは、
ZOOLのヴォーカルのメインヴォーカルの一人・亥清悠だった。
「亥清さんでしたか!お疲れ様です。」
 紡は立ち上がると、深々と一礼し、改めて悠に向き直った。
「もしかして、こちらでお仕事でしたか?」
「うん。……もしかして、IDOLiSH7も仕事だったの?」
「はい、もう収録は終わったので、あとは寮まで彼らを届けるだけです。」
「ふーん……。」
 聞き流しているだけなのか、どうなのか……味気ない返事が聞こえてきた。
「亥清さん、如何されましたか?」
「あのさ……先日の御礼が言いたかっただけ。」
 悠は更にキャップを深く被ると、照れ臭そうに言葉を告げた。
「……御礼……ですか……?それは、IDOLiSH7の皆さんに対してでしょうか?」
「違う。」
 紡の言葉に消えるように悠の言葉が返ってくる。
「……?あの……亥清さんに何か御礼を言われるようなことをした記憶がないのですが、何に対しての
 御礼なのでしょうか……?」

 きょとんとした紡の表情に、悠ははぁ……と大きく肩を落とした。そして、その日初めて、紡の瞳を
見つめながら、こう言葉を続けた。
「あのさ。ラビチャ送ったじゃん。『ばあちゃん、栗羊羹が好きだからおいしいお店教えて。』って。
 で、あんたが教えてくれたお店の栗羊羹、めっちゃばあちゃん、喜んでくれたからさ。」

「あ……っ!その件でしたか!?でも、喜んで頂けたんですね!本当によかったです!」
 紡が花のような笑顔を向けるものだから、今度は別の意味で照れ臭くなってしまい、悠は俯いて
しまった。悠はドキドキと胸の高鳴りを感じつつも、直接紡に御礼を伝えることが出来たことに
安堵しつつも、心の中の硬い蕾が綻ぶように、柔らかい日だまりのような気持ちが宿った。
「で……その……ばあちゃんが、どうしても直接御礼言いたいから、って……家に連れて来いって
 言うものだから……。」

 想定外の申し出に、紡はきょとんとしていたが、すぐに笑顔で応えた。
「本当に亥清さんはおばあ様が好きで、大切なのですね。……その……亥清さんが御迷惑でなければ、
 機会がございましたら、よろしくお願いします。」

 ぱああっと、悠の表情が明るくなった。とても素直で、まるで幼い子供のように、きらきらとした
笑顔だった。余程、この一言を言うために緊張していたのだろう。
「わかった!じゃあ、ばあちゃんにも言っておくし、また、ラビチャするな!絶対……絶対だからな!」
 悠は紡に縋るように、念には念を押した。
 話がまとまったところで、IDOLiSH7のメンバーが、ぞろぞろと控室から出て来たところだった。
「おー、いすみんじゃん!」
笑顔だった。余程、この一言を言うために緊張していたのだろう。
「亥清さん、お疲れ様です。」
 同じ高校に通う環と一織が、真っ先に声を掛けて来た。
「よぉ。」
 悠も軽く手を挙げて、挨拶を交わす。
「いすみんとマネージャーって、すっごく意外な組み合わせ!ねぇ、もしかしていすみん、マネージャー
 のこと、ナンパしてたの?」

 何の考えもなしに、環は思ったことをそのまんま二人に投げ掛ける。
笑顔だった。余程、この一言を言うために緊張していたのだろう。
「四葉、どう見たらそう見えるんだよ!」
 明らかに動揺する悠。そして、環を窘めるように一織が割って入る。
「四葉さん!あなたって人は……!亥清さんにもマネージャーにも、迷惑が掛かるでしょう。」
「えー……だって、お互い顔紅かったから、見たまんま言っただけじゃん。」
 環は口を尖らせながら、ぶーぶーと拗ねて見せた。
 その場の空気を変えるように、紡はIDOLiSH7のメンバーを眺めながら言った。
「さて――皆さん、揃いましたか?今日もお疲れ様でした!亥清さんはこれからお仕事みたいなので。
 亥清さん、頑張って下さいね!」

 改めて、紡は悠に一礼すると、IDOLiSH7のメンバーと共にテレビ局を後にしたのだった。

ふわっと思い付いて、1時間程度で仕上げたものなので、日常の一コマ、って感じですね。
世間では悠理(はるあや)が密かに流行っていますけどね。突如降って来た悠紡ネタでした。
ツンデレ最高だよね😳💕
あと、高校生組も可愛くて大好き🥰🥰🥰 わちゃわちゃしてもらいました。
(2023年11月10日完成、2023年11月11日サイト公開)