(はぁ、いいお湯だなぁ~。みんなと一緒に入りたかったけれど、ゆっくりと入りたかったから、
 後からにしちゃった。)

 ぐーっと、陸は腕を前に伸ばした。部屋に小さな露天風呂も付いているけれど、ゆっくりと大きな
お風呂で羽を伸ばしたいと思い、陸が大浴場に併設されている大きな露天風呂に立ち寄ったのは、
二十三時も回った頃だった。
 先日から、IDOLiSH7とマネージャの小鳥遊紡はバラエティ番組のロケで温泉街に来ていた。昨今の
飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らの活躍もあって、今回の宿泊施設は、老舗旅館の一泊何万とする宿を拠点と
して提供をしてもらっている。ロケとは言え、ある意味、事務所からの労いの意味も含めての今回の
旅行だった。
 さすがに、この時間を回ると、辺りに人気はなく、静まり返っていた。紺碧の空に懸かる満月が、
眩しく煌めいており、優しい光を届ける。
(あぁ~、こういう時に、大和さんとか三月なら、月を眺めて一杯、ってお酒飲むんだろうなぁ~。)
 何となく手持ち無沙汰になって、そろそろもう上がろうかと思った矢先だった。
 ちゃぷん……とどこかで水の音が響いた。
はっとして、音のする方向を見やると――艶めかしい白い背中が見えた。
キュッと締まったウエストに、柔らかそうな白い肌――濡れないように、髪の毛をアップにした
うなじに、陸はゴクリと喉を鳴らした。
(ど、ど、ど、どうしよう……!?マネージャー……!?)
 広い露天風呂、仄かな灯りの中、宵闇に紛れ、どうやら相手はこちらの存在には気付いていない
らしい。混乱してアタフタし、辺りに隠れる場所がないか、キョロキョロ見回した。もし、陸の存在を
知ってしまったら、紡はびっくりしてしまうだろう。
 すす……っと静かに更に距離を取った……つもりだった。

 ばしゃん……!!

 陸は後ろに転んで、バタバタと大きな音を立ててしまった。
「わっ……!?」
 はっと、紡が音のする方に気が付いて、駆け付けて来た。
「……大丈夫ですか!?」
 紡が陸の背中に手を添えて、抱き起こす。
 頭からずぶ濡れになった陸は、申し訳なさそうに謝った。
「わ……ごめん……!マネージャー!!」
「陸さん……!?」
 更に紡はびっくりして、声を掛けた。
どうして、こんな時間に……???」
「マネージャーこそ!」
 お互い、まさかこんな時間に、人がいるとは思っていなかったのだろう。
「……っていうか、この時間帯、混浴になっていたんだ!?」
「そうみたいですね……。私は、ちょっと明日の仕事のスケジュールを再度おさらいしていたのですが、
 気が付いたら、遅くなってしまって。」

「いたのが、オレだったからよかったけれど、知らない男だったら、何されていたか
 分からないから、気を付けた方がいいよ!」

 そうは言ったものの……自分だって、紡のこんな艶やかな姿を見たら……紡に好意を持っている陸に
とっても、目の毒にしかならない。
「はい……でも、いてくれたのが、陸さんでよかったです。」
 ぽっと紡は自分の頬に手を当てた。お湯の熱さのせいなのか、ほんのりと紅く上気している。
(こんな……無防備な姿、見せないでよ、マネージャー。)
「陸さんは、もう上がってしまうんですか?」
「……そうしようかと思っていたけれど、マネージャーがいるなら、もう少し……
 一緒にいたいな……。」

 陸はぎゅっと紡の腕を掴んで、腕の中に抱き寄せた。
「り、陸さん……!?」
「大好きだよ、マネージャー……紡さん。」
 普段は天使のようににこやかで、年齢よりだいぶ幼く見える陸だが、端正な顔立ちは時に少年と大人の
間を行き来するこの年ならではの色気を放つ。
「陸……さん……。」
 紡も陸の背中に手を回した。しばらく、二人は無言で抱き合っていたが、どちらかともなく唇を
重ねた。お互いの唇を求める音と、じりじりと吸い付く肌の熱さが、夜空の月をも溶かしそうな、
そんな夜――。


2022年7月10日開催【おとつむ💗】にて公開したものです。
今思えば……ちゃんと最後まで、陸紡のエッチ🏩💕を書いておけばよかった……。
何となく、当時は聖域って感じがして、書けなかったんですよね~💦
絶対初々しくて、可愛いよね~🥰🥰🥰
(2022年7月10日完成、2023年10月27日サイト掲載)