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「お帰り、今夜は遅かったんだね。」 紡が玄関の扉を開けると、珍しく先に帰っていた天が、ふわりと微笑んで出迎えた。 「天くん、今日は早かったんですね。」 「そ。だから、紡ちゃんとゆっくり出来るかと思っていたのに、キミ、こんな日に限って帰って来るのが 遅いから、心配しちゃった。」 天はちょっと拗ねたような素振りを見せつつも、リビングに紡を促すと、ソファーに腰掛るようにと 目配せした。 「はい、お疲れ様。」 天は紡のために用意したミルクティーを、テーブルの上に置いた。 「天くん、今日は帰り際に、とっても素敵な日だったんです。きっと、まだ見えると思うのですが。」 とても嬉しそうに話をする恋人の姿に、天は目を細めた。 「へぇ……キミ、何かいいことでもあったの?」 そして、愛しい恋人の顔を覗き込むと、紡はちょっと照れ臭そうに微笑んだ。 ソファに座っていた紡は、窓際まで歩を進めると、招き猫のように、天を手招きした。天は誘われる まま、紡の傍まで寄ると、ベランダへの扉を開け、外に出た。 「見て下さい、天くん!今日はとってもお月様が綺麗なんです!」 空を見上げると、少し靄が霞んだ深縹の空に、朧げなる光を放つ満月が懸かっていた。 「ちょっと曇っているのかな?でも、綺麗な満月だね。」 そして、ぎゅっと後ろから紡を抱き締めた。 「お帰り、紡ちゃん。」 「――!?」 柔らかい紡の頬に、チュッとキスをした。 「天くん……いつも不意打ちなんて、ズルいです……!」 「不意打ち……かな?っていうか、キミが隙がありすぎ。」 抱き締める腕を更にぎゅっと強めた。 「天くん、今日の満月は、ピンクムーンって言うそうですよ。」 「あぁ、ネイティブアメリカンの暦だよね。ピンク色の花が、たくさん咲く季節だから、その時の満月が そう呼ばれるんだってね。」 「さすが!よく御存知ですね……!」 紡はにっこりと微笑むと、天の顔を見上げた。 「でも、ボクはピンクムーンって満月よりも、その名前により相応しいくらいピンクに染まったキミの 方に、ずっと興味があるかな。」 ほんのりと紅く染まる紡の頬に、そっと手を差し伸べた。 紡はそっと目を伏せると、差し伸べられた手に、自分の手を添えた。 「ピンクムーン、日本なら桜の花が咲く頃に、見られたら、もっとよかったですね。」 「ふふっ、そうだね。でも、今は満月より、キミに夢中かな。」 お互いに目が合うと、ふふっと微笑み合った。そして、二人は寄り添い、抱き合うと、それ以上は 何も語らずに、互いの唇を重ねた。
ボクにとって、キミこそが月の光。満ちては欠ける月のように、様々な表情を見せてくれるけれど、 |
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4月27日だったかのピンクムーンに書いてアップしたかった!小話です。 桜🌸を仄めかす話、今年も書きたいなぁ、とは思っていたので、桜🌸の季節は終わっている話ですが、 書けてよかったです。桜🌸と満月🌕の組み合わせは、やはり西行の『山家集』から来ていますが、 やはり、桜🌸というのは春🌸💐🌼🌷 には欠かさないですよね😊💕 (2021年5月4日完成) |