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仕事が終わり、IDOLiSH7のメンバーの帰り支度を待っている間に、紡はテレビ局の一角にある待合所 のソファーに腰を掛けていた。待合所でには、ブックラックが片隅に置いてあり、何となく時間を潰す ために一冊手に取ってみる。 偶然見掛けた雑誌を手に取って、紡ははっとした。 その雑誌の表紙には――「ブライダル特集」の文字が大きく踊っている。そして、その表紙を華やかに 飾っているのは、IDOLiSH7の先輩であり、よきライバルでもあるTRIGGERの三名だった。 それぞれの雰囲気に似合うスーツを纏い、それぞれの色気を放つ三名がブライダル特集に登場とも なれば、世間の女性すべてを虜にしてしまう。 (はぁ……皆さん、素敵ですね……。) 元々、TRIGGERのファンであった紡は、今でこそ、TRIGGERのメンバーとは仕事で接することが 増えたとはいえ、やはり、こんな姿を見せられてしまっては、心が動かないと言ったら、嘘になって しまう。 (IDOLiSH7の皆さんにも、こんなブライダル特集とかのお仕事が来たら、感無量ですね……。 息子を送り出す母親って、こんな気持ちなのでしょうか!?) TRIGGERのメンバーに頬を赤くして浮かれていたと思えば、IDOLiSH7の 面々を思い出し、彼らの成長ぶりを嬉しく思うものの、自分の手が離れていくようで、少し寂しくなる ような、そんな気持ちも織り交ざった気持ちにもなり、少しうるっとしてしまう。 「ちょっと、キミ――誰に百面相しているの?」 背後から声を掛けられて、はっと息を呑んだ。 「……!?九条さん!?」 振り返ると、まさに、先ほど見ていた雑誌に掲載されていたその人が立っていた。 帽子を被り、伊達メガネを掛け、口にしていたマスクを顎にずらし、怪訝そうに紡を見つめている。 ――TRIGGERのセンター・九条天。 「一体、いつからそちらにいらしたのですか!??」 「そうだね……君が雑誌の表紙を見つめている辺りから。」 「――!?それって、最初からじゃないですか!?」 思いも寄らない来訪者の発言に、紡は耳を真っ赤にする。 「表情が分からないけれど……後ろ姿で物を語りすぎ。」 天は、紡の向かいのソファに腰を掛けた。 「何、今日はIDOLiSH7のメンバーもここで仕事?」 「はい、そうなんです。今、皆さん、帰り支度をされているところですよ。」 紡は平静を装って、天に笑顔を向けた。 「ふうん、そうなんだ?」 天はちらりと紡の手元に目をやった。まだ、先程の雑誌を手にしている。 「ねぇ……ところで、どうだったの?」 「へ……?どうだったのって……?」 紡は天の意図する答えが分からず、キョトンとして見つめた。 「雑誌の感想。ボクたちの写真見て、どう思ったの?」 天はまじまじと紡の顔を見つめた。 (これは……九条さん御本人を目の前にして、何と言えばいいのやら……?) 紡は持っていた雑誌を自分の顔の前に翳して、真っ赤になった顔を覆った。 「もちろん……皆さん、素敵でした……っ!」 「当然だよね。ボクは仕事については手を抜いたりしない。」 そして、雑誌で顔を隠している紡の手を掴んで、無理やり紡の顔を 覗き込んだ。 「でも……今、キミがどう思ったのか、その感想を聞きたかったんだけれど。」 真っ直ぐな視線が紡の心を打ち抜く。 「その……TRIGGERの皆さん、素敵でしたが……九条さんの隣に立たれる方は、きっと……素敵な方 なんだろうな……とか思いまして……。」 「へぇ……じゃあ、キミ、ボクの隣に立ってみる……?」 ふふっと悪戯っぽく、妖艶に天は微笑み掛ける。 「いえ……!?そんな!?そんなことになったら、いくつ心臓があっても足りません!」 紡はぎゅっと瞳を閉じた。 (そんな表情されたら、ますます困らせたくなっちゃうな。) 天はさらりと紡の頬に掛かる髪に触れた。その時――。 「あれ!?天にぃ!?うわぁ~!ここで会えると思わなかった!」 無邪気な声が、緊張を切り裂いた。気が付くと、着替えが終わったIDOLiSH7のメンバーがニヤニヤ しながら、二人の様子を眺めていた。 「へぇ……九条、マネージャーの顔、真っ赤だけど、キスでもしたの?」 リーダーの二階堂大和は面白そうに二人をからかう。 「それはないです!」 紡は慌てて、大和の言葉を否定した。 「そーちゃん、マネージャーって口説かれていたの?」 「僕に聞かないでよ、環くん!状況からして、そう見えただけかもしれないだろう?」 急に騒がしくなり、天はソファから立ち上がった。 「さて、ボクもそろそろ行かないとね。」 そして、去り際に紡の肩にぽんと手を置くと、耳元で囁いた。 「今度、一緒に指輪でも見に行く?手作り出来るみたいだよ。」 「――!?」 一度治まった熱が、またぶり返して、紡は顔を覆った。 「天にぃ!マネージャー泣かしちゃったの!?」 オロオロして落ち着かない陸に、一織が声を掛ける。 「七瀬さん、どう見たら、そう見えるんですか……。とにかく、皆さん、行きますよ。マネージャーも、 車、お願いしますね。」 「車、回して来ますね!お待ち下さい!」 はっと紡は顔を上げると、慌てて紡は出て行った。
紡は運転席に座ると、そっと自分の薬指を撫でた。 ******* ブライダル特集なんて、女性の憧れなのかもしれないけれど、あくまで仕事。本当に隣にいてほしいのは、キミだけだってこと、忘れないでよね。 いつかその薬指に魔法を掛けてあげる。 どこにいても、ボクのことを思い出せるように。 そして、どこにいても、キミのことを思い出せるように――。 |
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やっと、サイト用にページを更新出来ました。 天くんが紡ちゃんをからかうのを描くのは、とても楽しかったです🥰🥰🥰 そして、2人に関連する結婚を意識するテーマは書きたかったので、今回書けてよかったです。 (2020年6月24日完成、2021年3月21日更新) |