好きな子にはいつだって、光輝いていてほしい――。

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 某日某所スタジオにて、アイドリッシュセブン、TRIGGER、Re:valeの三組は、コスメブランド・G-Rit
の撮影で、顔を合わせていた。クリスマスコフレのイメージモデルとして選出されたわけだが、コスメの
モデルは女性が圧倒的に多いというのに、今回、人気男性アイドルグループがモデルということで、
斬新なプロモーションが行われるとのことだった。
 確かに、メイクアップアーティスト、美容師、そして女性が好きなデザートを生み出すパティシエと
いうのは、男性が圧倒的に多く、女性の魅力を引き出したり、女性の好みのものを考え出すことに秀でて
いる……という話もあるくらいだ。
 今回、コスメブランドに男性陣が抜擢されたのも、女性の魅力をより一層引き出すため、魔法を掛ける
ことの出来る男性アイドルというのも、納得がいく話である。
 この日も、それぞれのグループのマネージャーは、アイドルと共にスタジオ入りしており、アイドル
たちとは別のところで、東奔西走していた。マネージャーの仕事というのは、完全な裏方で、地味な
仕事だが、とても綿密にスケジューリングを行い、目的から逆算して動いていかなければ、こなせない
仕事である。マネージャーというのは、周りが思っている以上に、過労が付きまとう。

 すべての撮影が終わって、スタッフが片付けに入り始め、アイドルたちが各々の楽屋に戻った頃。
アイドリッシュセブンのマネージャー・小鳥遊紡は一人、彼らの楽屋の前でスケジュールのチェックを
行っていた。
「小鳥遊さん……さっきから、一人で百面相してて、笑えるんだけど。」
 不意に声を掛けられて、顔を上げれば、そこにはTRIGGERのセンター・九条天がくすくすと笑いつつ、
紡を見つめている。
「お……お疲れ様です……く、九条さん!?」
「キミ、相変らず、だよね。ボクがこうして声を掛けると、いつもこの反応。別に、獲って食いやしない
 のにね。」

 そして、改めて、紡の顔色を伺うように、覗き込んだ。いつもと違う大人びた衣装を身に纏った彼は、
いつも以上に艶やかだ。
「……ねぇ、キミ……疲れているみたいだけど、ちゃんと休んでる?」
「は、はい!そんなに、顔色悪いですか……!?……でしたら、お見苦しいところをお見せしてしまい、
 申し訳ございません……!」

 深々と頭を下げる紡が、顔を上げた時、天はすかさず、彼女の手を取った。
「――わっ!?」
「いいから、ちょっと着いて来て。」
 紡の手を引いて、天はすたすたとスタジオの廊下を歩いて行く。幸い、ほとんどのスタッフが片付けや
次の番組の打ち合わせで人払いされていたおかげで、誰ともすれ違うことなく、TRIGGERの楽屋まで
辿り着くことが出来た。
「どうぞ、中に入って。」
「皆さんは……?」
「楽は立ち寄りたいところがあるから、って先に帰ったし、龍はこれから、二階堂大和たち数名で飲みに
 行くから、先に上がったよ。」

 促されるままに、室内に入ると、天は楽屋の壁面にある鏡台の前に座るように促した。
「く……九条さん!?」
「――何……?これから、手が離せないんだけど。」
 天は紡を無理矢理座らせると、白いケープを首周りにかけた。
「これ、キミに試したい、って思ったんだよね。」
 すかさず、天は鏡越しに、今回の撮影で使ったコスメポーチを見せた。それぞれのグループのカラーが
展開されており、アイドリッシュセブンはブラック・シルバー・ホワイトのシャープで洗練された
イメージ、TRIGGERはブラック・ゴールド・ホワイトとゴージャスで煌びやかなイメージ、Re:valeは
宇宙や深い海を連想させるようなイメージでそれぞれキーカラーとして展開している。
 天はポーチの中から、撮影にも使った真っ赤なルージュを取り出した。
 キーカラーのブラックとゴールドが、あまりにも眩しく、さらに鮮烈な赤が主張するルージュは、普段
の紡自身のイメージからもかけ離れるし、周りからしてもそう思うことだろう。
「わ……私にですか……!?そんなゴージャスなイメージ、私には絶対似合わないです……!」
 紡はふるふると首を振った。
「そんなことないと思うけど。ねぇ、ボクたちTRIGGERの色に染まったキミを見てみたい。」
「そ……そんな、畏れ多いです……!」
 紡の言葉をよそに、天はブラシに色を取る。
「ふふっ、まぁ、いいから。」
 こう言い出したら、彼が退かないことは、紡はよく分かっていた。それに、心なしか楽しそうな天を
見ていると、彼に任せてしまってもいいかな……なんて思えてくる。
 紡は諦めて、すっと瞳を閉じた。さすがに、顔の美しい彼に見られていると思うと平静でいられない。
 ブラシに乗せた真っ赤なルージュを、すっと紡の唇にひいた。丁寧に輪郭を取り、唇の皺に合わせて
丹念に色を置く。ほんの短い間だったけれど、とても長く感じられた。
「――はい、出来たよ。」
 天の声を合図に、紡が瞳を開き、鏡に映った自分を見つめて驚いた。
「赤いリップなのに、案外薄付きなんですね!?でも、発色はいいんですね。」
「そう。血色がよく見えるでしょ?」
 天は満足そうに微笑んだけれど、更に言葉を続けた。
「でもね……それじゃ、まだ足りないんだ。」
「……どういうことですか?」
 ふふっと笑うと、天はグロスを取り出した。ゴールドのパールを孕んだピンクベージュのグロス。
天は紡の唇に、更にグロスを重ね、適度に指で馴染ませ、一旦ティッシュでオフにしてから、改めて、
紡に鏡を見るよう促した。
「TRIGGERのカラーに染まって、ってお願いしたけれど、本当はボクだけの色に染まってほしいな、って
 思って……。」

「……!?」
 何と言う殺し文句だろう。そんなことを、好きな人に言われたら、陥落しないわけがない。
「このコフレはキミにあげる。見本でもらったものなんだけれど、よかったら使って。」
「え、いいんですか!?」
「それに、願わくば、ルージュでキミにお返ししてほしいな。意味は調べてね。ボクの口から言うのは、
 恥ずかしいから。」

(さんざん恥ずかしい台詞を聞いた後なのに……。)
 紡は内心そう思いながらも、後日、その意味を知って、天としばらく顔を合わせられず、しばらくは
天の弄りの材料になったとか、ならないとか……。

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 キミがTRIGGERだけじゃない、ボクだけの色に染まってほしい……。
そんな願いを込めて贈ったのだけれど、自分が思っていた以上に独占欲は強いみたい。
時には、パールのようにしなやかで上品な煌めきを、そしてたまには、星屑のようなラメをキミの唇に
ひいて、ボクを誘って。唇に色を重ねて、そしてその唇でボクとの時間も刻んでいってほしい。
 これからもずっと――。

久々に、ちょっとした小話を書いてみました。クリスマスコフレ🎄💄✨の話題が出た時から、書くなら
これしかないだろう、と。
実際のリップ💄が、どんな色付きになるのかは分かりませんが、勝手に捏造しました。
なお、本当は今時のメイクって、あまりグロスとか使わないらしいんですけど、ニュアンス的に使うのはありらしいので、そういった意味合いで、グロスの表現を入れてみました。
とりあえず、メリクリ🎄🎉✨ですね。
(2018年12月24日完成)