昔、天にぃと約束したんだ。
あの空の向こう、天の川に辿り着けたら、大好きな人たちに星をプレゼントする――って……。

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 7月7日、七夕の夜――。
夏の宵闇が訪れるのは遅く、ようやく夏の夜空の主役である星たちは、その存在を主張し始める頃合
だった。
 陸はその日の仕事を終えて、一旦小鳥遊事務所に立ち寄った。
仕事が無事に終わったという報告はもちろんのことだったが、密かに心を寄せているマネージャーである
紡の顔を、少しでも見たかったからだ。陽だまりのように優しくて、天使のように可愛いのに、しっかり
しているマネージャー。
 そんな彼女に思いを寄せているのは、自分だけではないことは分かっているのだけれど……。
 事務所の扉を開くと、紡の楽しそうな鼻歌が聞こえた。鼻歌を聞くに、どうやら仕事は終わっている
らしい。
「ただいま、マネージャー。今日の仕事、無事に終わったよ。」
 陸が入って来たのを認めると、紡はそれまでしていた作業の手を止めて、座ったまま、にっこり
微笑んだ。
「お疲れ様でした、陸さん。」
「マネージャー、今、何してたの……?」
 机の上を見れば、いろいろな色の紙が置かれている。
「もしかして、マネージャー、短冊書いていたの……?」
「はい、そうなんです。皆さんを驚かせたくて、実は万理さんと一緒に、こっそりと七夕飾り、作って
 いたんですよ。」

 見て下さい、と指差された方向を見ると、いつものソファーの横に、笹……というよりも、小振りの竹
と言った方が正解であろう、立派な七夕飾りが用意されていた。キラキラ光る紙を繋ぎ合わせて作られた
吹流しや、星を繋ぎ合わせた飾り、提灯飾り、織姫と彦星……階段や天の川など、とてもたくさん飾りで
彩られていた。
 そして、いつの間にか、たくさんの短冊も吊るされていた。短冊はどうやら、アイドリッシュセブンの
面々が、それぞれ願い事を書いているようだ。
「短冊は、皆さんには書いて頂いていたので、あとは、陸さんだけなんです。」
 どうやら、他のメンバーは朝、そして午前中や日中に、それぞれ事務所に立ち寄った折に、短冊を
書いたらしい。
「そうなんだ……!?願い事かぁ……。」
 願い事……いざ、何か短冊に書こうとしても悩むところである。
 七夕には織姫と彦星の七夕伝説が有名だけれども、本来は裁縫や習い事などが上達するように願う日
でもある。里芋に溜まった水が神様の恵みの水ということで、それを使った墨で、梶の葉に願い事を
すれば叶うとも言われている。
 陸にとっては、願い事をするのならば、アイドリッシュセブンのセンターとして、より一層歌唱力を
高める……ということを願うのが妥当なのかもしれない。
(でも――。)
 陸は紡をマジマジと見詰めた。そして、紡の座っている机の傍まで来て、短冊を1枚手に取った。
そして、ペンを手に取り、意を決して、さらさらと願い事を書いた。

大切な人たちに、星を降らせることが出来ますように――。

「素敵な願い事ですね。陸さんらしいですね。」
 紡は、ずっとにこにこして微笑んでいたけれど、キラキラした瞳で陸を見詰めた。星屑を閉じ込めた
ような紡の瞳に、吸い込まれそうになった。長い睫毛が大きな瞳に陰影を作り出し、より一層その奥の
煌めきへと陸を誘い出そうとする。
(この笑顔を守りたい……。)
 陸は不意に紡の頬に触れた。
「……り、陸さん……!?」
 ふわりとした彼女の髪が、手の甲に触れて、心地いい。少し慌てふためいて、ほんのり顔を赤くした
彼女の反応も可愛くてたまらない。
「マネージャー、オレがこれからも、マネージャーにたくさんの星を降らせてあげる。たくさんの星を
 マネージャーにあげる。昔、天にぃと約束したんだ。大切な人たちに、星をプレゼントする、って。」

「そう……なんですね。」
 いまだ触れられている手の感触に、紡の胸の鼓動は高鳴るばかり。いつもの天真爛漫で無邪気な彼とは
違う一面を垣間見て、紡はその先の言葉を待つことしか出来なかった。
「だから、その時には……これからも、いつも、マネージャーに隣にいてほしいな……、なんて。」
 えへへ、と照れ臭そうに笑って、陸はようやく、紡の頬から手を離そうとした……が。今度は、紡が
手を離さなかった。頬から手を離し、陸の手を両手で包み込んだ。
「陸……さん、もう、私は十分に星をもらっています。だから……これからも、陸さんを……皆さんを
 輝かせることが出来るように、私も頑張りますね……!」

「うん、ありがとう!オレ、もっと頑張るね!……そうだ、マネージャー、せっかくだから、外に出て
 みようよ。星を見に行こう!」

「はい。」

*******

 七夕の夜、織姫と彦星は、1年に1回だけ、天の川を渡って会うことが出来る。
 もし、オレが彦星になったら、嘆いて1年過ごすなんて絶対に嫌だ。
大好きな人に届くように、毎日毎日、大好きな歌を届けるよ。天の川を越えて、ずっと遠くまで。
そして、いつか……紡……大切なキミに、歌声に想いを乗せて、この想いを伝えられたらいいな。

初めて投稿するアイナナ🌈小説は、陸紡となりました誕生日🎁🎂🎉 に間に合わせたかったけれど、
無理だったので、今更ですが、アップしました。
りっくんって可愛いんだけど、どこか男の子らしい芯の強さも見せたくて。それから、蟹座🦀男子は
侮ってはいけない。それまで閉じ篭っていても、何かの拍子に、堰を切ったように、感情が
溢れ出すのが蟹座🦀です。周りがびっくりするくらいの行動力がある時があるけれど、勇敢に、果敢に
立ち向かっていく、そんな側面を描きたくて、りっくんもちょっと攻めモードにしました。
(2018年7月12日完成)